金を売った話2022-12-22

結婚する時に、欲しい指輪があって、指定して買ってもらった。
誕生石がミルククラウンの爪に収まった、ホワイトゴールドの細身のリング。
当時、婚約指輪にお金をかける価値観がなかったため、カジュアルなファッションリングだ。
誕生石が好きだったのと、ミルククラウンの爪が気に入って、とても満足していた。

満足していたのだが、すぐに日常的に使い辛いぞ、ということに気付く。
結婚指輪と重ね着けしても、何となくしっくりこない。どちらも細身のシルバー色だからか、面白みがない。
かと言って、右手に嵌めても、何となく邪魔に感じる。
そもそも、2人とも指輪をする習慣がなかったため、結婚指輪ですら、できるだけ邪魔にならないよう、細くて薄い、何の装飾もないリングを選んでいる。

せっかく買ってもらったのに、使わないな……、と10年も仕舞い込んでいたが、やっぱりちょっと勿体ないと思い直し、チェーンとバチカンを買って、ペンダントとして使うことにした。
リングがホワイトゴールドなので、素材を合わせる。
バチカンを通すことによって、正面で吊るせて、ペンダントトップ感を出せたのではないだろうか。
(この効果はよく分からない。誰からもネックレスについて触れられたことがないので)
外出時に、たまに着ける。普段使いのネックレスはこれだけである。(あとは冠婚葬祭用の真珠があるだけだ)

自分でチェーンを買うのもこれが初めてなので、種類もよく分からず、40cmの細身の小豆チェーンにした。
華奢である。そして短い。
5年使ったのだが、うっかり2度、チェーンを切ってしまった。
タートルネックの服を着ている時、何となくネック部分を手で広げてしまうのだが、チェーンを忘れてやってしまい、ぶちっと切った。
1度目は頑張って丸カンをラジオペンチで曲げて、何とか修復した。チェーンは少しだけ短くなった。
2度目ともなると、もうやる気をなくした。チェーンはさらに短くなるだろうし、細かいものを見る視力も、前回より後退している。

この、華奢で短いチェーンは、自分には向いていないと悟った。
もっと長くて、丈夫なものに変えよう。

が、近年、金の価格は高騰している。
長くて太いチェーンは、当然ながら重量も増えるわけで、あまり気軽に買える値段ではなかった。

リングがホワイトゴールドだから、前回はチェーンもホワイトゴールドにしたけど、まあ、特に揃える必要性はないな、と思い、ステンレス製を買うことにする。
シルバーはすぐに酸化して黒に変色するけど、ステンレスならその心配はない。

意気揚々と購入し、ホワイトゴールドと並べて初めて気づく。

輝きが違う!

そう、アクセサリーに慣れていない人生を送ってきたので、あまり貴金属の価値を重んじていなかったが、この時初めて気づいた。

金は美しいのだ。

金と言えば、強くて浸食されにくいとか、伝導率が高いとか、柔らかくて加工しやすいとか、そういう物質としての素晴らしさに意識が向いていて、単純に、宝飾品として美しい、という点を見過ごしていた。

16年も持っているのに(指輪として使っていないからか)傷ひとつないし、くすみも変色もない。ずっとピカピカに輝いている。

そうか、これが人類を大いに狂わせ、争いを生み出す金の魅力か……!
物質として安定している、という特異性が金本位制を生み出し、錬金術に駆り立てたのだ、という人類の歴史を、やっと実感できた。

なるほどな!と思ったが、ステンレスのチェーンを買ったので、もうこっちを使っていくしかない。

そして価値が目減りしないのだから、切れたチェーンは売れるのではないか、と当然思った。
スペックとしては、10金、ホワイトゴールドと純度は低い。
キッチンスケールで量ったが、1gもなく、0としか表示されない。

買取店を探し、取引価格を調べたが、まあ、最低でも数百円にはなるんじゃないかと予想を立て、持ち込むことにした。
このまま不燃ごみとして処分しても、リサイクルされない可能性がある。
折角の資源なんだから、有益に循環した方が良いだろう。

近所のショッピングモール内の店舗に持っていく。
「金を売って下さい」というチラシはさんざん目にしていたが、今の今まで縁がなかった。
そしてチェーンを売ってしまったら、所有している金は、本当にこの指輪だけだ……!

白手袋をした店員さんが、小数点2桁まで量れるスケールで計量してくれた。
そう!これ!このスケールが欲しかったんだよ!と心の中で盛り上がる。
0.59gですね、と告げ、検査をしますので、とバックヤードに持っていく。
検査?何だろう、アルキメデスの原理で、水で体積を量るのか?伝導率を調べるのか?
疑問が膨らんだが、結局訊けないまま帰ってしまった。

そして買取価格は1000円だった。
5年前に7000円で購入したものだ。
まあ、そんなものだろう。いいよ、いいよ、リサイクルして、何かの基盤にでもなってくれ!
1000円とノベルティの使い捨てカイロ、ペットボトルのお茶をもらって、店を後にした。
(大した取引でもないのに、こんなにもらっていいのか若干心配になる。)

以上が、金を売りに行った話の顛末である。
金にこんなに意識が向いたのはこれが初めてで、なかなか面白い体験だった。
金の価値なんて、知識として知っているようで、今の今まで実物の観察もせず、きちんと認識していなかった。
こういう風に知らないことが、まだまだいっぱいあるんだろうよ……。

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